【Alternative Careers/Internships|社会人講師インタビュー】 思考の筋トレを楽しめる人は、どこでも強くなれる —— 戦略コンサル出身Aさんのキャリアと仕事観
本シリーズでは、Alternative Careers/Internshipsの講師陣が、ご自身のキャリア、企業選びの軸、実際の仕事を通して得た実感、そして学生へのアドバイスをご紹介します。
PROFILE
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Aさん

EP1
経歴と現在の業務
戦略コンサルティングファーム出身。オルタナでは、戦略コンサル志望者対象にケース・ジョブ講座を主に担当しています。
大学では、都内の国立大学で社会科学系の学部に所属していました。
専攻は公共政策寄りでしたが、サークルではバンドをやりつつ、友人と小さな勉強会を立ち上げたりもしていました。
「社会の仕組みって、なぜこうなっているんだろう?」と考えるのが好きな学生でしたが、当時はそれを仕事にするイメージまでは持てていませんでした。
そんな中で出会ったのが、戦略コンサルティングという仕事でした。
公共政策とビジネスをつなぐような事例を知り、「これは仕組みづくりの最前線に近い仕事だな」と感じたのが最初のきっかけです。
新卒では、外資系の戦略コンサルティングファームに入り、そこで数年間、経営戦略や新規事業、M&A(企業の買収・統合)の案件に携わりました。
扱うテーマは本当に様々でした。
メーカーの中期経営計画の策定、大手サービス業の新規事業立ち上げ支援、投資ファンド向けの事業デューデリジェンス(投資前の事業評価)など。
1つのプロジェクトは3か月前後で終わることが多く、気づいたら「業界図鑑」が頭の中に出来上がっていくような感覚がありました。
戦略コンサルの仕事を一言でいうと、「混線した状況を構造でほどき、前に進めること」だと思っています。
まずはクライアントの目的、制約条件、ステークホルダー(関係者)、KPI(成果指標)を1枚に整理する。
次に、「どこまでわかっていて、どこからが仮置きなのか」を分けます。
これをしないまま議論を始めると、みんな違う地図を持ったまま会議室に入ることになるので、絶対にぶつかります。
構造を整理したら、論点を3〜4つに絞ります。
「本当にここを決めれば前に進むポイントはどこか」を見極め、仮説を立て、必要な情報と検証の順番を決める。
最後に、示唆(結論の意味)→根拠→打ち手→インパクト(影響)の順にストーリーを組み立て、役員や現場の方が「明日、何をすればいいか」が見える形で提案します。
私はこれを「再現性のある進め方」と呼んでいて、肩書きよりもここにこだわって仕事をしてきました。
現在は、公共と民間の境界にあるプロジェクトに携わることが多いです。
自治体と民間企業が一緒に進める街づくりの構想、公共サービスのデジタル化、中長期の政策立案の支援などです。
たとえば、人口減少が進む地方都市のプロジェクトでは、「10年後にこの街をどういう状態にしたいのか」という抽象的な議論から始まりました。
そこで、自治体、地元企業、住民それぞれの視点をヒアリングし、「人口」「財政」「雇用」「暮らしやすさ」という4つの軸に整理していきました。
最初はバラバラだった意見が、論点の言葉を揃えていくことで少しずつ噛み合い始めます。
「あの人は反対している」のではなく、「違う前提で話していた」だけだとわかる瞬間があります。
そういう場面に立ち会うたびに、「構造化」という地味な作業が、人のストレスを減らし、合意形成を楽にしてくれるのだと実感します。
1日の流れは、午前中にチーム内のミーティングや個人作業、午後にクライアントとの打ち合わせが入ることが多いです。
資料作成、インタビュー、データ分析、ワークショップの設計など、仕事内容は多岐にわたりますが、共通しているのは「考え方を形にして、人が動きやすい状態をつくる」という点です。
こうした日々の仕事で鍛えられた「思考の型」を、オルタナの講座でもそのまま活かしています。
EP2
就職活動の振り返り
就活を始めた頃の私は、正直に言うと「何者でもない自分」に少し焦りを感じていました。
大学ではそこそこ真面目に勉強はしていましたが、突出した実績があるわけではない。
一方で、「何か大きなことをやりたい」というざっくりした欲求だけはある。
そんなモヤモヤした状態でした。
最初は、総合商社、外資コンサル、外資系IT、大手メーカーなど、いわゆる“人気業界”をひと通り見ていました。
どれも魅力的に見えましたが、「なぜそこなのか」と聞かれると、うまく言葉にできませんでした。
今振り返ると、**軸がないまま企業リストだけ増やしていた時期**だったと思います。
転機になったのは、先輩たちとじっくり話をしたことです。
商社に行った先輩、スタートアップに入った先輩、官公庁に進んだ先輩、それぞれの「リアルな日常」を聞きました。
そこで気づいたのは、自分がワクワクするのは「目の前の仕事」よりも、「仕組みや構造の話」をしているときだということでした。
社会問題でも、企業の課題でも、根っこの構造を分解して「実はここがボトルネックだよね」と話しているときが一番楽しかったのです。
それに気づいてからは、志望業界が絞られていきました。
経営戦略、公共政策、新規事業など、「構造で考え、打ち手をつくる」タイプの仕事ができる場所。
その中でも、短期間で多様な業界・テーマを経験できる戦略コンサルは、当時の自分には魅力的に映りました。
とはいえ、選考が順調だったわけではありません。
筆記試験で落ちることもありましたし、グループディスカッションでうまく話せず、悔しい思いもしました。
今でも覚えているのは、とある外資系企業の一次面接で、面接官にこう言われたことです。
「君の言っていることは、部分的には面白い。でも、どこから話しているのかがわからない」
その一言で、自分の弱点がはっきりしました。
「内容以前に、思考の“見せ方”が整理されていなかった」のです。
それからは、どんな質問に対しても、「前提→論点→仮説→検証→示唆」という順番を意識して話すようにしました。
話す前に10秒だけメモを取って、「今日はこの3つを話そう」と決めてから口を開くようにしただけで、面接の手応えは大きく変わりました。
もう一つ、後から効いてきたのが「言語のチューニング」です。
就活のとき、多くのビジネス書や社会人向けの本を読みました。
知識を増やすというよりも、「社会人がどういう言葉で物事を捉えているのか」を知るためです。
同じ「成長」という言葉でも、学生と社会人では意味が違う。その“定義のズレ”が、面接でのすれ違いを生んでいたりします。
理系の友人と話していても、彼らは具体のディテールに強い一方で、抽象的な言葉でまとめるのが苦手だったりします。
逆に、文系の学生は抽象的な言葉を多用しすぎて、「結局何をしたのか」が見えなくなることもある。
私自身も最初はこの両方の悪いところを持っていたタイプだったので、本を読みながら、「この言葉はこういう範囲を指しているのか」と少しずつ感覚を揃えていきました。
今振り返って就活生の自分にアドバイスするとしたら、こう伝えたいです。
「エントリー数を増やす前に、言葉と軸を整えた方がいい」と。
どの業界に行くにしても、自分なりの言葉で、自分の考えを説明できる力は必ず武器になります。
EP3
なぜ講師をやっているのか
本業もそれなりに忙しい中で、なぜオルタナで講師を続けているのか。
理由はいくつかありますが、一番大きいのは「自分も環境に救われた側だから」です。
私が就活をしていたとき、社会人のメンターや講師の方に本当にお世話になりました。
ケース面接の練習に付き合ってもらったり、落ちた面接のフィードバックを一緒に整理してもらったり。
「この問いの立て方はもったいない」「今の説明は、君の良さが削れているよ」と、かなり率直に指摘してもらいました。
そのおかげで、自分の思考のクセや、話し方の弱点に気づくことができました。
もしあの時期に、そうした人たちとの出会いがなかったら、おそらく今とは全く違うキャリアを歩んでいたと思います。
だからこそ、今度は自分がその「環境の一部」になりたいと思いました。
講師という立場ではありますが、「上から教える人」ではなく、「少し先を歩いているだけの人」として関わっている感覚です。
もう一つの理由は、教えることが一番の思考トレーニングになるからです。
コンサルの現場で使っている考え方やフレームワークを、人に伝えようとすると、驚くほど言語化が甘い部分が見えてきます。
「なんとなく感覚でやっていたこと」を、学生にも伝わる日本語に置き換える。
このプロセスを繰り返すことで、自分の仕事の精度も上がっていきます。
学生と接していて感じる難しさもあります。
情報が多すぎる時代だからこそ、「正解探し」に走ってしまう人が本当に多い。
「外資コンサルに行くためには、これとこれをやればいい」といったチェックリスト的な情報に引っ張られすぎて、
自分が本当に何を面白いと感じるのか、どんな働き方をしたいのかが置き去りになりがちです。
一方で、そういう学生が、ある瞬間に顔つきが変わることがあります。
ケース練習の中で、自分なりの仮説を立てて話し始めたとき。
面接対策の中で、「本当はこういう生き方がしたいんです」と、少し照れながらも自分の言葉で語り出したとき。
その瞬間に立ち会えるのは、講師冥利に尽きます。
「自分が学生のときに、こういう人がいてくれたらよかったな」と思う存在像も、どこかで意識しています。
正解を押しつけるのではなく、「考え方のヒント」と「ちょっとした踏ん切り」を渡してくれる人。
オルタナでの講師活動は、私にとってそのイメージに少しでも近づくための場でもあります。
EP4
学生へのメッセージ
最後に、これから就職活動を本格化させる皆さんに、いくつかお伝えしたいことがあります。
まず一つ目は、「努力より構造」という考え方です。
もちろん努力は大事です。ただ、「頑張ったのに報われない」という状況の多くは、努力量よりもやり方の構造に問題があります。
自己PRでもケース面接でも、「前提→論点→仮説→検証→示唆」という順番を意識して話してみてください。
最初はぎこちなくても、声に出して練習するうちに、だんだんと身体に染み込んできます。
二つ目は、「量から質への切り替えポイントを意識する」ことです。
ケース面接の問題をとにかく数多く解くフェーズも必要ですが、どこかのタイミングで、「1問を徹底的に振り返るフェーズ」に移行した方がいいです。
1つの問題に対して、自分の解き方と、友人やメンターの解き方を比べてみる。
「どこで分岐したのか」「どの前提を落としていたのか」「なぜその打ち手を選んだのか」を言語化してみてください。
この「感想戦」の時間が、思考の筋力を一気に伸ばしてくれます。
三つ目は、「言葉のチューニング」です。
ビジネスや社会について書かれた本を読むとき、「知識を増やす」というよりも、「社会人がどんな言葉で世界を見ているのか」を意識してみてください。
6割くらいは理解できて、残り3〜4割は「ちょっと背伸び」な本を何冊か読むと、自分の言語感覚が少しずつ変わってきます。
社会人と同じ言葉で話せるようになると、面接でのコミュニケーションも格段に楽になります。
四つ目は、「就活を生活リズムに組み込む」ことです。
就活の準備を「気が向いたときにまとめてやる」スタイルにしてしまうと、必ず波ができます。
それよりも、1日30分でもいいので、ESを書く、ニュースを構造的に整理する、ケースを1問解く、といった習慣にしてしまった方が楽です。
モチベーションに頼らず、「歯磨きと同じくらい当たり前」にしてしまうのが、長期戦を乗り切るコツだと思います。
そして最後に、一番伝えたいのは「正解より納得」ということです。
就活は、SNSを開けば他人の“正解”が大量に流れてくる時代です。
でも、その人の正解が、あなたの正解とは限りません。
たとえ同じ外資コンサルに行ったとしても、そこにたどり着くまでのプロセスと、そこでのキャリアの描き方は、人によって全く違います。
大事なのは、「自分はなぜこの選択をするのか」を、自分の言葉で説明できることです。
その選択がうまくいかなかったとしても、「あのときの自分は、あれがベストだと思っていた」と言えるかどうか。
その感覚さえ持てていれば、どんな環境に行っても、やり直すことはできます。
思考の筋トレは、最初はしんどいかもしれません。
ただ、構造で考えることを楽しめるようになると、どんな業界に行っても、どんな職種に就いても、必ず武器になります。
もしオルタナの講座でお会いすることがあれば、一緒にその筋トレをしていきましょう。